第二章 いざ助六へ!

2.Tちゃんの報告

 オッサンの抜け駆け単独ツーリングでシーズンを終えた昨年から長い冬を越えた翌春、いよいよシーズン到来である。が…、団長とTちゃんと私のスケジュールが合わずに、ただ時間だけが過ぎて行った。そんな中、腰の重い団長と動きの早いTちゃんは休みが揃い、私をおいて、さっさと木曽へ行ってしまったのであった。そして、木曽から帰るとTちゃんからすぐに連絡が入った。

Tちゃん「S先輩、スゴイですよ、助六は!仕事の日程を教えて下さい。一緒に行きましょう!でもひとつだけ困ったことがあるんです。」
S藤「何だ?」
T「先輩、免許持ってないでしょ?」
S「持ってない。」
T「助六までの道のりは厳しいです。とにかく悪路で登りもキツイです。」
S「俺の愛車、MTBじゃ無理か?」
T「絶対無理です。今度行く時までに免許を取って下さい。普通免許や自動二輪なんて贅沢は言いません。とりあえず原付でいいですから。それじゃあ」ガチャン!

 まさかこの歳になって原付の試験を受けに行くとは思ってもみなかった。助六に行く日まで約50日。試験を受けに行ける平日の休みは3日しかなかった。それでも助六の為じゃあ…。1ヶ月後、記憶力の衰えた脳みそながら、何とか原付免許を取った。とりあえずTちゃんに連絡だ。するとまたTちゃんから電話がかかって来た。

T「いい中古バイク見つけました。保険付きで4万円でどうでしょう?」

 カミさんに頼み込んで購入した。カミさんはただ呆れている。助六とかいう変な所に行くために、免許を取って4万円のバイクまで購入することが理解できないらしい。(当たり前じゃ!)
 Tちゃんと私は団長とは違い、妻子持ちである。従ってあまり自由に動けない。そこでお互いに恩を受けているふりをして、お互いに誘われたら断れないというフリをして渋々出掛けている事にしてある。

団長「そんなのバレバレだよ。顔が楽しそうじゃん!」

 助六アタックがあと2週間に迫った頃、またまたTちゃんから電話が来た。

T「いきなり助六でバイクデビューじゃ大変だから事前に練習しましょう。」
S「何ぃ、そんなに難しいのか!免許の試験の後、実技講習を受けさせられたゾ!口では任意とは言っていたが、ほとんど強制的に…。それも、初心者コースと経験者コースの2つのコースがあったがな!原付免許の試験を受けて『経験者コース』って、それまで無免許運転だったんちゃうか?俺、初心者コースに入ったがそこそこ乗れたで。ほとんど自転車感覚やったゾ。本当に練習する必要あるんか?」
T「何を寝ぼけた事言ってるんですか!それってエンジンかけて右手でスロットル回すだけのスクーターでしょ?そんなもんでは助六へは行けませんよ!とにかく次の休みの日に私の家まで来て下さい。」

 何と、助六への道は、そんなに厳しいものなのか?それにしてもTちゃんは一体、どんなバイクを用意したのか?
 いよいよ練習当日、Tちゃんの車に乗り込み練習場へ向かった。そこは川崎市内の某所のとある施設の駐車場、仕事を終えてヒマな時間帯だったので、だだっ広い駐車場には何も停まっていない。そしてそこに現れた一台のバイク、それは『スーパーカブ』であった。荷台には出前用の振子を外した跡がクッキリ残っている。

S「何とか!これで助六行くんか!誰もいないようなところに出前でもするんか!」
T「色々検討した結果こうなりました。まず、林道の悪路を克服する大きめの17インチホイール。次に3速シフトの登坂力と耐久性。そして何よりも片手で運転、出前も楽々。」
S「やっぱり出前するんか?昼食は俺の担当か?」

 大袈裟ではなかった。このスーパーカブは、Tちゃんの知合いの蕎麦屋が本当に出前で使っていたもので、出前の兄ちゃんが辞めてしまい、休車状態だった2台の内の1台を出前用振子付きで譲り受けたものだった。さすがに助六へ行くにあたっては振子は外された。さらにホンダCRM50のフロント用のオフタイヤまで履いて、カッコ良くなっている…。(全然なってましぇ〜ん!)

S「いやぁ〜、木曽路には行くには、やはり振子じゃないの?」
T「それはJRの特急でしょ!」

  

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