第一章 いざ助六へ!

1.道はあるのか・・・?
 あれは忘れもしない(ここで「いつだったかいなあ?」「忘れとるやないの!」というボケとツッコミはあえてしない。)1994年春の事であった。

Tちゃん「よく覚えてましたね。」
S藤「手元にメモが残っとる。」
T「やっぱり忘れてるじゃないですか!」
S「はじめから覚えていないから、忘れもせんのじゃ!」

 最近、軽探団の団長に就任したらしいH氏(通称オッサン)がアウトドア系雑誌の『Outdoor』(そのままや!!)1993年9月号を持って我が家にやって来たことから騒ぎは始まった。

団長「この本にこんな記事が載ってるんだけど、これってどのへんなの?」
 と差し出した本の中には『親(パパ)と子の夏休み』と題して長野県は木曽の山奥、王滝村の更にとんでもなく山奥の「助六」に行ったという内容の記事であった。
 久しく木曽森林鉄道の事など頭になかったので、いきなり「助六」の文字を見てもピンと来なかった。

S「助六ねぇ…、助六…、何ぃ!す、す、す、助六に行ったぁ!!」
団長の手から本をむしり取るように奪い、詳しく読んでみると次のような内容のレポートであった。

 あらすじ
「王滝村の最奥の集落である滝越をベースキャンプに、4WD系の車に乗って白川林道から小俣林道を経て助六林道に入り、林道終点の助六からは森林鉄道跡を徒歩で進み、釣りをし、昼食を食べ、水遊びもして夕方には滝越へ戻るという親子のほのぼの体験談。めでたし、めでたし。」

 記事の中には森林鉄道に関する記述も多く出てくる。
 あらすじ その2(森林鉄道編)
「助六で車を降り、藪こぎをしながら進むと急に視界が開け軌道跡に出る。所々、崖崩れで危ない場所もあるが、注意しながら進むことができる。トンネルを抜け鉄橋を渡り木橋も渡ると正面に滝が見える。この少し先で崖崩れで行く手を阻まれ撤退。(中略)助六付近には、かつての作業小屋の残骸や機関庫の跡もある。機関庫の中には機関車の部品も転がっている。(写真付)」

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S「ここね、木曽福島か上松から西の方へ入った御岳山南側の山奥。かなり山深いところでっせ!」

 更に古い地形図を取り出し、団長に説明するが、このとき私には「助六に行ける」ということが信じられなかったのである。何故なら地形図ですら、助六への道が記載されていないのである。

団「行ってみたいよね。」
T「面白そうですね。」
S「じゃあ、早速企画しましょうか?」

 と言うことで、私たちは早速、助六行きの準備にとりかかった。そして何よりも助六行きに拍車をかけたのは、記事の中で親子だけならまだしも、ペットの犬までもが軌道跡の木橋の上を歩いていたことであった。

S「橋の上は危険って書いてあるのに、犬まで渡っとる!」
T「あまり拍車がかかる理由になっていないように思いますけど…。」

 行けると分かれば後は赤児の手をひねるよりも簡単。もうすでに助六に着いたも同然である。
 その後、何日かは助六周辺の情報収集に時間を費やした。地形図、道路地図、住宅地図、登山地図、電話帳、旅行ガイド、オフ用バイク雑誌の林道情報など。しかし、調査が進むにつれて当初の不安が蘇ってきた。

S「だっだっ団長、大変です!助六に通じている道が一本もありましぇ〜ん!!」
団「そんなはずないよ。だって車で助六まで入ったって書いてある。」
S「でもこれを見て下さい。頼みの最新の地形図でさえ、真弓峠の先で道がふたつに分かれて、すぐに消えてまっせ!」
団「ふ〜ん、この道のどっちかが通じているんじゃないの?」

 おっさん、冷静である。と言うより危機感ゼロなのである。だが、私も情報家としての意地がある。そして、その後の緻密なデータ分析(どんな分析じゃ!)の結果、助六へ通じているであろう道を完全に次の3つに絞り込んだ。

T「それ地形図見れば判りますよ。助六周辺には道が3つしかないじゃないですか!」

@真弓峠の先、二股を右へ進む
A同じく真弓峠の先、二股を左へ進む
B大穴で、上松町赤沢方面から回り込むように助六対岸付近に現れる林道

 記事の内容から常識的に考えても@かAのルートが有力である。
 次に検討したのは真弓峠までのルートだ。考えられるのは、これまた3つであった。

@記事の通り、滝越から白川林道を入り、小俣林道を経て助六林道へ至る
A氷ヶ瀬から助六林道を一気に登る(最短ルート)
B大穴で、岐阜県側から真弓峠を越えて来る

 これもまた@かAのルートが有力だ。
 かき集めた資料によれば、氷ヶ瀬の林道入口にはゲートがあるらしく、滝越から入るルートにはゲートの記載がないことから本命を記事の通り@に絞り、滝越に向かう途中で氷ヶ瀬の入口を見て行く、ということに決定した。勿論、氷ヶ瀬の入口から入れれば、迷わず突入だ。
 最短ルートの氷ヶ瀬進入ルートは、林道入口から真弓峠まで約8km。途中、約4kmのところで滝越からの来る小俣林道と合流する。滝越からだと、かなりの距離がある。いずれにせよ、あとは現地で確認するしかない。

  



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