■天草の人力トロッコを探れ!


 天草西岸の苓北町から旧天草町にかけて良質の陶石鉱脈があり、今でも陶石を採掘する小規模鉱山が鉱脈に沿って多く残る。その中には昔、トロッコを使用していた鉱山も少なくないが、近年、そのような鉱山は急激に減少し、廃線や廃線跡だけが残されている状況になってしまった。これまで天草の陶石鉱山のトロッコはレイルマガジン等の鉄道誌でいくつか紹介されてきたが、中でもBE-PAL2001年3月号に掲載された記事は鉄道誌顔負けの充実した内容であった。これらの記事をまとめると僅か10km足らずの間に廃線跡を含めて10箇所を数える。とにかく現地へ行って現況を調査してみるとしよう!
 福岡空港からレンタカーを借りて多久市と島原市に立寄った後、口之津港から鬼池港へフェリーで天草に上陸した。国道324号から389号を南下し、苓北町から旧天草町へ。下田温泉から南は道幅が狭くなり急カーブも多くなり、注意しながら周囲の怪しげな所を確認する。中ではすれ違いができないくらい狭い小田床トンネルを抜け、下田南の集落に下る坂道の急カーブの途中に陶石が転がったスペースが見えた。車を停めるとここが上田陶石小田床鉱山であった。国道から20mくらいのところに坑口があり、その中に木製のトロッコが停めてあるのが見える。今回、訪問した天草のトロッコでは唯一の現役トロッコだ。しかも人力の鉱山トロッコである。人力の鉱山トロッコと言えば山形県や宮城県にあった亜炭鉱山のトロッコを思い浮かべるが今では閉山してしまい、残念ながら見ることが出来なくなってしまった。この上田陶石小田床鉱山は全国でも現存する数少ない人力の鉱山トロッコのひとつだ。
 軌道は坑口の所にあるポイントで二手に分かれ、鉱石置場を挟むように伸び共に国道脇で終わる。ふたつ合わせても50mに満たないくらいの長さだ。一方の軌道の途中は車軸に差すオイルの染みで黒く汚れていて、この軌道が生きている微かな証拠を示す。しかし片方は使われていないようで軌道上に草が生えていた。坑口は鉄格子状の門で閉ざされ中に入れないようになっていて、奥行きがどの程度なのか覗き込んでも分からないが、坑口のすぐ上に「岩石採取標識」という看板が掲示してあり、それによると鉱区は坑内掘りで先ほど車で通り抜けてきた小田床トンネルと同じくらいの長さが記されている。坑道は意外と長いのかも知れない。
 今回は稼動している姿を期待して月曜日に訪問してみたが、トロッコが動いているのは見られなかった。中々来られる場所ではないだけに非常に残念であった。

《データ》
■上田陶石 小田床鉱山下部軌道 [現存]

◇熊本県天草市下田南
◇区間:鉱山敷地内◇距離:約0.05km(坑外部)◇軌間:508mm◇動力:人力◇敷設日:不明
 

《車輌データ》
◇01:上田陶石 FC(木製2軸無蓋/508mm)

◇参考資料:RM128p74-p75(1993.10.30)・RM192p88-p89(1999.05.01)・BE-PAL2001.03号

[調査日:2009.11.30]



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