第一章極秘プロジェクト始動

1.点が線
 1999年春のことであった。
 ある情報と別の情報とが複雑に交錯し、そこに接点を見出した時、それは大きなヤマに発展する事がある。密かに収集した情報を整理していたら一見バラバラに見えた点と点がつながり線になったのであった。団長に報告する前に、とりあえずTちゃんに相談するか…。

Tちゃん「何か出だしからエラく難しそうに書いてますね。多分、たいした事ではないんでしょ?」
S藤「喧しい!ま、ちょっと相談があるんやけどな。」
T「温泉ですか?それとも木曽ですか?そろそろ目覚めて動き出す頃かと思ってましたよ。」
S「わしゃ、冬眠から覚めた熊か!」

 Tちゃんに冬眠の熊扱いされるのも無理はない。前年秋の鯎川以来、活動が疎かで家に篭っている日々が続いていたからである。

S「まだ発表は出来んが、実は凄いプランがあるんや…」
T「どんなプランですか?」
S「あんた、水曜日が休みやろ?」
T「突然来ますね。そうですけど…、それが何か?」
S「で、水曜日、木曜日の連休は取れるんか?」
T「仕事しだいですけど何とか取れると思いますが…。」
S「よしわかった。じゃあ詳細はまた後で!」
T「何ですかそれっ!すごく気になるじゃないですか!触りだけでも教えて下さいよ!」
S「じゃあ、今は『TRKプロジェクト』とだけ言っておこう。」
T「トロッコですね!!」
S「ど、どっ、どうしてそれを!…」

 何故、情報が漏れてしまったのか良くわからいが、バレてしまった以上仕方がない。

T「誰だってわかりますよ!このホームページはトロッコ専門なんですから!」
S「ところで、『立山砂防』って知ってるか?」
T「ああ、あのスイッチバックの凄いヤツでしょ?」
S「そうそう。その軌道に乗せてもらえるツアーがあるんやけど…。それが水曜日に決行されてるんや。」
T「何とですか!行きましょうよ、乗りに!」
S「まあ、待たんかい!話しはここからや。」
T「まだ先があるんですか!会話が長くなりそうですね。またいつもの行数稼ぎじゃないでしょうね!」
S「何を言うか!失敬な!」
T「おや、今回は、ちょっと本気みたいですね…」
S「立山だけなら火曜日に出発して水曜日の夜には帰れるやんか。木曜日も、と・い・う・こ・と・は〜…。」
T「何と!まだあるんですか!その溜めはタダゴトじゃないですね!立山砂防に乗るだけでも凄い事なのに!」
S「そう、実は黒部峡谷の奥の関西電力専用線ってわかるか?通称『上部軌道』や。」
T「黒部ダムか何かのトロッコですよね?まさかそれにも?」
S「その通り。それが何と木曜日に行われているんじゃ。」
T「何とですか!これは行くしかないじゃないですか!」

 と、言う事で密かに進行するハズのTRKプロジェクトは脆くも露呈してしまったのである。それにしても「立山」と「黒部」に乗れるなんて!しかも合法的に…。この業界にとってまさに衝撃的かつ画期的な事であった。
 火曜日、仕事を終えてから出発し立山付近で泊。水曜日に立山砂防体験乗車の後、立山黒部ルートに入り温泉好きなのでここは「みくりが池温泉」あたりで泊。木曜日の朝イチで黒部ダムに向かい関西電力に乗車し欅平へ。下山後帰路。と言うプランが即座に出来上がる。どうだ、「お見事!」の一言に尽きよう。こうしてTRKプロジェクトが始動したのであった。

2.秘密兵器(軽探団の隠し玉)登場
 TRKプロジェクトを団長に報告した。流石に普段「忙しいからな…」を連呼している団長も今回は「参加の方向」という前向きな答えが返ってきた。
 そして今回はいよいよ働き者のH君(軽探団最年少)が登場する事になる。木曽には参加していないので忘れている方も多いと思うが、「謎のトロッコ探索マニア集団『軽探団』」文中、「くろよん」の写真左端にいる灰色の彼である。(みんな灰色じゃ!)H君にも声をかけたら彼も即「参加」の返事だ。めったに乗れないトロッコに乗るためにワザワザ後輩に声をかける思いやり…。涙ぐましい先輩の気遣いである。

H君「や、や、やめて下さいよ!先輩達の誘いはロクなことないんだから…。どうせ何か裏があるんでしょ?」
Tちゃん「失礼なヤツだな、オマエは!後輩のためを思っての事なのに!何故、素直に喜べないかなあ?」
H「わ、わ、わかりました。よ、よ、喜んで参加させていただきますよ。」

 と、言う事で事無きを得た…。

H「何ですか?その『事無きを得た…』って?」
S藤「いやあ、ナニ、君には関係ない…、○×▲…、」
H「何か怪しいなあ…」

 今は言えないが、実は彼の参加、不参加がTRKプロジェクトの行方を左右するほど重大なのであった。
 その後、Tちゃんとの入念な打合せを繰り返し、プランの骨子が出来上がる。いつになく進捗状況が早い。立山も黒部も申し込み後抽選となるので人気が集中する夏休みの時期だけは避けたい。HPに出ている予想競争率を参考にしながら綿密な計算式ではじき出されたプロジェクトの決行日は7月7日を◎(本命)に決定した。

H「どんな計算式ですか?教えて下さいよ。」
S「そりゃあ、ナニだよ、何と言うか、Tちゃんが休みの水曜日=(俺の休日−夏休み)÷団長の仕事日×3.14ぐらい…やがな…」
T「その式、よく解りませんけど円周率以外は何となく間違っていないような気がしますわ!」
S「そうやろ、H君の都合など全く考慮していないのが良く表れた計算式だ!」
H「少しは僕の都合も計算に入れて下さいよっ!!」


  


 

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