■幻の水上トロッコ

 水上を走るトロッコがあると言う、俄かに信じられない情報(ネタ)が当局に飛び込んできたのは今年の1月末のことだった。

S藤「水上にトロッコが走る!って信じられるか?」
Tちゃん「上越線にトロッコ列車ですか!」
S藤「アホッ!それは『みなかみ』じゃ!そうではなくて『すいじょう』!」

 と、小ネタを挟んで本題に入る。

Tち「それに何か意味があるんですか!」

 謎だらけの水上トロッコ、場所は茨城県の霞ヶ浦で、軌道のほぼ全線が湖上にあるというが…。考えていても解決しない、とりあえずWEB上でガサ入れしてみるか…。
 グーグルで1日中検索をかけてみたが、なかなかヒットしない。で、諦めかけたその時、ようやく1件だけ怪しいトロッコにヒットした。それには錆び付いたトロッコ(らしきもの)と湖岸から湖上に延びた一直線の軌道(らしきもの)の写真が載っていた。しかし、そのHPには霞ヶ浦のどの辺であるのか場所に関する記述がない。霞ヶ浦と言えば日本で2番目に大きな湖である。もう少し場所を絞り込みたい。例え車で周囲を回ったとしても探し出すのは苦労を要するであろう。そこで思いついた作戦は…、

S藤「茨城にいるH君に捜索依頼を出そうと思うんやけどな。」
Tち「いくら彼が働き者とは言え、そりゃ、ちょっと厳しくないですか?周囲は何キロあると思っているんですか!」
S藤「そうかいな、新車の慣らし運転には最適やんか…」

 そう言われては仕方がないので、もう少し絞込みをすることにしたが、いいアイデアが全く浮かばないのであった。イタズラに時間が過ぎて行こうとしている。こんな時は気分転換にテレビでも観るか…。と、つけたテレビを何気なくボケーっと画面を観ていると、総武線の上空から津田沼あたりを映している。…曲がりくねった京成線は鉄連の…。「これだ!」

S藤「決まった!『空から霞ヶ浦を見てみよう』作戦だ!」
Tち「ヘリでもチャーターするんですか?」
S藤「ちっちっちっち(指ワイパーの音)、甘い甘い。もっとお手軽、簡単、安価な方法があるぞ!しかも自宅で出来る!」
Tち「何とですか!」

 その作戦はヤフーやグーグルの地図で見ることが出来る航空写真を最大に拡大して湖岸をなぞっていくという画期的なものだった。早速パソコンを立上げて作戦実行だ!とりあえずヤフー地図から土浦駅を出して写真に変換して最大限にアップ!湖岸を左回りでスクロールする。結構な拡大率だ。あまりにもアップしすぎて現在地が分からないほどだ。

S藤「何や、霞ヶ浦って意外と細いんやな…」
Tち「そこは川ですよ!湖岸から逸れてます!」
S藤「あっちゃ〜、だいぶロスしたがな!それにしても目が疲れるわ〜。」

 結局、1周するのに30分以上かかった。

Tち「で、結果はどうだったんです?」
S藤「あった…、あったで…、2箇所あった…」
Tち「えっ、2箇所もですか!」

 そう、かなり怪しいのが2箇所もあったのである。共に湖岸から沖の台船に向かって一直線の軌道らしきものが延びているのが確認できる。場所は土浦駅から3〜4kmの地点と、約10kmのあたり。軌道があるかないかは別にして、とりあえずこれで目的地は明確になった。次は現地調査の段取りだ。
 土浦であれば普通列車でも十分日帰り圏内、駅から現地まではレンタカーかレンタサイクルか?片道10kmなら天気が良ければチャリでOK。また、土浦ならホリデーパスの範囲内で幸い7日の日曜日は予定がない。調査がかなり現実的になってきた。
 そして、2月6日に高校時代の鉄系サークルの集まりがあって茨城在住のH君と顔を合わせた。

 …そうだ、チャリより運転手付きの車の方がラクに決まっている…

S藤「明日は茨城におるんか?」
H君「ええ、今日は帰りますけど…」
S藤「昼頃、2〜3時間空いてるか?」
H君「何ですか、一体?」
S藤「霞ヶ浦でちょっと怪しいトロッコ(多分)調査をしようと思うんやけど…」
H君「…大丈夫ですよ。」

 これで決まった!更にその後、話しがいい方向へ展開する。
 H君からのメールで、今夜H君は茨城へは帰らず、実家に泊まるので、明朝、迎えに行きましょうか?の連絡。
 渡りに船であった。が、流石に迎えに来てもらうのは申し訳ない。我が家からH君の実家までは車で約10分の距離である。こちらから彼の実家まで行く事で話がまとまった。

 2月7日午前8時40分、H君の実家の前で合流し、一路霞ヶ浦へ!首都高から常磐道、H君の新車は快調に飛ばす。常磐道を降りると土浦市街を抜け霞ヶ浦の湖岸まで来た。湖岸のサイクリングコースを少し広げたような感じの道を目的地へ進む。まだ季節は早いが桜並木が続いている。きれいに整備された国民宿舎横を通り霞ヶ浦に注ぎ込む小さな川に突き当たる。川の向うは陸上自衛隊の基地があるため、湖岸を通ることができないので一旦国道125号線に出た。新しくできた予科練の資料館の前を過ぎて更に東へ進む。第一の目的地の近くまで来ているようだが、湖岸へ出る道が見つからない。湖岸から少し離れた国道から湖方向を注視しながら車を走らせる。すると砂利採集場のようなベルトコンベアと砂利か泥の山のようなものが見えた。「あの場所に間違いない!」少し先で湖岸へ通じていそうな路地を見つけので迷わず入る。湖岸を土浦方面へ戻るような形で進むと…、発見!怪しげな桟橋のようなものが沖合いへ延び、起点部にトロッコ風のものが止まっていた。

 

 細いレールの上に2台のトロッコがある。軌道は存在していた!台車の上でアングル材が鳥居形に組まれ、何かを持ち上げるための小さい手動ウインチが付いている。車輪の断面は滑車の様にレール上面に当たる部分は凹型で脱線しにくい構造になっている。同じ形のトロッコが2台で1組になるように向かい合わせになっていて、比較的長い物を持ち上げながら沖の台船方向へ運ぶためのトロッコのように思う。台車の端にはバッファが付いている。レールの太さからして、運ぶのは重量物ではなさそうだ。

  

 軌道は湖岸から離れると支柱に支えられて真直ぐ沖へ延びる。地上部は2メートル程度で残りは全て水上になる。軌間はかなり広く、実測で1515mmであった。今まで計測した軌間では最大である。これは1m50cmなのか5フィートなのかは判別できない。軌道の内側にはパイプが2本通っている。掲示されていた許可証によると、占用目的は「砂利、砂、土砂の荷上場」、名称及び種類「排砂管敷設のための受枠及びフローター」、採取方法「機械堀 サンドポンプ船 1隻」などと記載されているので、沖の台船で湖底の土砂等を汲み上げて軌道内のパイプを通って河川敷に積み上げている施設のようであったが、この日は休日だったので稼動はしていなかった。軌道の距離は目測では難しいのでヤフーの航空写真からの計算して割り出した。現状と航空写真が同じかどうかは分からないが参考までに記しておく。

《データ》
■霞ヶ浦骨材採取共同組合(浮島開発株式会社) [現存]

◇茨城県稲敷郡阿見町大字大室地先◇土浦 バス(住宅下)→歩10◇公道より見学可
◇湖岸〜沖合◇約0.133km(航空写真より計測)◇1515mm(実測)◇人力(推定)◇敷設日不明
◆01:FC(鋼製2軸 1515mm)[2010.02.07確]
◆02:FC(鋼製2軸 1515mm)[2010.02.07確]
 
 ※「写真」を選択すると軌道が見えます。

 最初の調査を終えて次に向かった。2つ目も同じような軌道があることが期待できる。湖岸に沿った道は細いのでUターンができないが、時折、対向車が来る(軽トラばっかであるが…)ことから先で折り返せそうなので、このまま進んでみた。国道125号線沿いにあった予科練施設の裏手まできたが更に細い道がクネクネと続く。すると国道に出た。

S藤「何や、ここに道があったんやんか!」
H君「先輩がちゃんと見てないんじゃないですか!助手席に座っているのに!」
S藤「…  」

 再び国道125号線を東へ向かう。目印は木原というところにあるセブンイレブンと郵便局だ。5分も走れば目的地は近い。先の方にセブンイレブンらしき看板がある。左へ入れそうな道を探しながら慎重に進んだ。湖岸に向かっているような道があったので入ってみる。すると右手に砂利か泥のような山が見えて来た。突き当たりの湖岸の所に鳥居形のアングル材が見える。さっき見たトロッコと全く同じだ。手前で車を降りて湖岸へ向かう。トロッコも軌道も全く同型のものがあったが、こちらは掲示板がなく、施工業者名等が分からなかった。尚、航空写真から割り出した軌道延長はこちらの方が長い。

 

 

  


■美浦町の採取場 [現存]
◇茨城県稲敷郡美浦町大字舟子◇土浦 バス(舟子)→歩10◇公道より見学可
◇湖岸〜沖合◇約0.165km(航空写真より計測)◇1515mm(実測)◇人力(推定)◇敷設日不明
◆01:FC(鋼製2軸 1515mm)[2010.02.07確]
◆02:FC(鋼製2軸 1515mm)[2010.02.07確]

 ※「写真」を選択し拡大すると軌道が見えます。

 と、言う訳で今日の調査は上出来である。軌間の広さと、車輪の形状で少し抵抗を感じる方もいるかも知れないが、雰囲気はまさしくトロッコである。湖上をゴロゴロと動いている姿を見ることが出来れば、かなり楽しいハズですよ。

[調査日:2010.02.07]



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