■曲線建造物の謎を探る

北炭真谷地楓坑


 1980年の夏休み、初めての渡道を計画する際、トロッコ巡りを目的に夕張付近の炭鉱について調べた。特に地形図については鉱山や軌道のマークをくまなくチェック。その中に楓駅近くに鉱山名は記載されてないが鉱山マーク(横に「せきたん」と書いてある)があるのは確認していた。しかし、それには軌道のマークはなく、何やら怪しげな曲線の建造物らしきものしか記されてなかったのと時間的な制約で、夕張駅周辺を中心に楓行きは割愛してしまったのであった。
 そして、初渡道の翌年、トロッコ界(どんなんや!)不朽の名著『知られざるナローたち』が発行され、その中に「北炭真谷地桂坑」が紹介され強い衝撃を受けたのであった。(ちょっと大袈裟ですけどね…)その後、BESTトロッコでも紹介(写真1枚だけですが…)されるが、記事になるのはトロリーポールをつけた電気機関車ばかりで、軌道に関する記述は全く出て来ないのであった。
 この桂坑の所在地が何処なのか分からなかったが、何となくこの楓駅近くの鉱山マークが北炭真谷地の桂坑ではないか?という推測で訪れてみようと思ったのである。
 1986年の冬(本州では春とも言うが…)、北海道を訪れた際、楓まで足を延ばしてみた。以前は夕張線の支線の駅であったが、訪問当時は路線変更により石勝線に編入され、特急列車が猛スピードで走り抜ける本線の横に工事のついでに作ったようなホームがあるだけの駅だった。
 殺風景な駅前から雪解け水が流れるアスファルト道を炭鉱目指して歩いた。すぐに楓炭山橋という橋があって、そのすぐそばに『北炭真谷地炭鉱KK楓坑』の看板を掲げた門があった。手書きで書いたような味のある看板だ。門からは古い建物が見えるが、トロッコの軌道は見えない。
 北炭真谷地楓坑

 更に進むと小さい橋があって、下には青いトタン屋根の建物が曲線を描いて延びている。地形図に載っていた謎の建造物はこれだ。
 北炭真谷地楓坑

 最初、地形図を見たときは何だか分からなかったが、実物を見てハッキリした。この正体は坑口から選鉱場までのトロッコ軌道のスノーシェッドだ!。しかし、窓はあるものの、覆いが全体にあるので中の軌道は全く見えない。スノーシェッドが無くなる所まで一般道をこのまま歩くことにした。すると、スノーシェッドが途切れた所に鉱車の列が見えた。軌道はまだ使われていた!しかし、良く見ると架線がない…、ということはTLはもう使われていないのだろうか?車が通れる砂利道が続いていたので向かってみた。 従業員用の乗用車が何台か停まっていたので、誰か関係者が居ないか探してみたが人の気配がない。とうとう雪除けの所まで来てしまった。中を覗くと複線の線路が続き、奥にTLが停まっていた。「おお、まさに『知られざる…』に載っていたTLと同型だ!!」確かにインパクトの強い風貌である。台枠に運転席とトロリーポールを付けただけの超シンプル構造だ(部品を1つでも外したら動かんようになるんちゃうか?)。架線が張ってあるのはスノーシェッド内だけであった。隣の線路には鉱石を積んだ鉱車が連なって停まっている。鉱山自体はまだ操業中のようだが全てが止まった状態であった。
 スノーシェッドから出た線路は真直ぐ鉱車回転機を通り緩やかな登り勾配の先まで続いている。恐らくこれはハンプになっていて、戻りは自然降下方式のようである。他の部分は積雪に覆われていて線路配置が分からないが多少の側線はあるように思われた。

 北炭真谷地楓坑

 『知られざる…』で紹介された北炭真谷地桂坑と、この楓坑が同一であるという確証はないものの、酷似していることは確かである。
 鉱山の敷地は積雪により何処に何があるのか全く分からなかった。見える部分は10分程度で見尽くしてしまった。今度は雪のない時期に来よう、そう思って炭鉱を後にした。しかし、この翌年、残念ながら閉山してしまった。

《データ》
■北炭真谷地炭鉱 楓坑 [鉱山軌道]

◇夕張市楓◇新夕張(訪問当時は楓駅より徒歩10分)
◇区間:鉱業所内◇動力:DC500V◇軌間:508mm◇敷設日:不明◇廃止日:不明(1987年閉山)
◇参考資料:知られざるナローたちp19,20(1980.02)・RM18BEST・トロッコp53・地形図1/50000「紅葉山」昭和53年8月30日発行
 

 北炭真谷地楓坑

[調査日:1986.03.27]



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